
沖縄には「トートーメー」と呼ばれる沖縄独特の位牌があります。位牌の形も変わっていて、一つの位牌に複数のご先祖様の名前が書かれています。実は沖縄のトートーメーには形以外にもいろんな秘密があるのです。
そもそもトートーメーは上流階級の人しか持てなかった
トートーメーが沖縄の風習として庶民の間で広く根付くようになったのは、比較的最近のことです。もともとトートーメーは、血縁関係のある共同体である「門中(むんちゅう)制度」が置かれるようになったことによってできたものです。門中制度が置かれる元となったのは、琉球王朝時代に王府によって設置された「系図座」にあります。
系図座は一族の血縁関係を表す家系図のようなもので、沖縄ではこれを「家譜」と呼びました。ところが家譜を持つことが許されたのは士族と呼ばれるごく一部の特権階級でしかなく、商人や農民などは家譜を持つことはできませんでした。そのため家譜を持つことが出来る一族のことを、沖縄では「系持ち」と呼んでいました。
家譜を持っている系持ちは、18世紀頃になると同じ血縁関係にある者同士が集合体としてまとまるようになります。これが門中制度の始まりです。そして同じ門中同士でご先祖様の供養を行うようになったことで、トートーメーと呼ばれる沖縄独特の位牌を継承する習慣が始まります。
つまりトートーメーは、家譜を持つ士族たちの門中の間で始まった上流階級の習慣が起源だったということなのです。
トートーメーの習慣が沖縄に根付いたのは19世紀以降だった
系持ちと呼ばれる士族の間で18世紀頃に始められるようになったトートーメーの習慣ですが、広く沖縄全域にこの習慣が根付くようになったのは明治~大正時代以降のことといわれています。
それまでは家譜を持つ士族のみで見られた門中制度ですが、19世紀になると家譜を持つことが出来ない商人や農民たちの間でもこの制度が始まります。このことによってそれまで士族の間でしか浸透していなかったトートーメーの習慣が広く庶民にも広がり、沖縄の先祖供養の必需品となっていきます。
トートーメーにタブーが多いのはもともと士族の習慣だったから?
トートーメーには、本州の位牌では見られない様々なタブーがあります。特にトートーメーの継承におけるタブーは未だに根強く残っており、様々な問題があります。実際にタブーを犯すと「子孫に災いが降りかかる」という迷信のようなものが未だに言い伝えられており、現代人の感覚でこうした物事を考えるとなぜタブーとされているのかが理解できないこともたくさんあります。特にトートーメーの継承でタブーとされているのが「女性がトートーメーを受け継いではいけない」という意味がある「イナグガンスの禁止」です。
そもそもトートーメーは沖縄式の位牌です。位牌は亡くなった人の魂の依り代とされているので、ご先祖様の供養の時には必ず必要になります。ご先祖様の供養を行うのは一家の家長と決まっており、代々一族の長男が務めるのが沖縄の慣習です。
「家長は長男に限る」わけですから、二男以降の息子たちは成人すれば分家をしなければいけません。分家をすれば新たな門中が出来るわけですから、位牌も新しく作らなければならなくなります。
さらにご先祖様の供養は男性の役目なので、女性はできません。もちろんご先祖様の供養を引き継ぐということは、供物を準備するなど金銭的な負担も生まれます。そのため「供養を引き継ぐ代わりに一族の財産を相続させる」という暗黙のルールが出来上がりました。
でもよく考えてみてください。一般的な生活をしている庶民が所有している財産と特権階級と呼ばれる士族たちの財産は、同じ規模であるはずはありません。財産が多くなればどの時代においても相続問題が起こるのは必然ですが、引き継ぐ財産が少ない庶民にとってみればそもそも相続問題が起こること自体あり得ないことです。
つまりトートーメーの継承に関するタブーが複雑かつ様々な問題を抱えているのは、トートーメーそのものが士族の間で生まれた習慣であるということが関係しているということが言えます。もっとわかりやすく言い換えれば、「日本の殿さまの時代の慣習を未だに沖縄ではトートーメーと呼ばれる位牌の継承において続けている」とも言えます。
トートーメーではキリスト教でも位牌を作ることがある
位牌が必要になるのは仏教での供養というのが一般的なイメージなのですが、沖縄のトートーメーはそもそもが仏教の考えから生まれた習慣ではないため、場合によってはキリスト教であってもトートーメーを作ることがあります。
沖縄のトートーメーは門中制度から生まれた習慣ですから、同じ門中であればどの宗教・どの宗派であっても一つのトートーメーの中に納めることが出来ます。そのためなのか、トートーメーで位牌の表書きとして記入する名前は俗名(この世の名前)のみです。
ですから洗礼を受けたキリスト教徒であれば、トートーメーに俗名の代わりに洗礼名を書くこともありますし、俗名の上に十字を書き入れることもあります。とはいえこの方法も一般的なものというわけではなく、あくまでも「様々な宗教上の考えに柔軟に対応することが出来る沖縄の位牌(トートーメー)」の代表例の一つといえます。
沖縄は独自の文化を歩んできた
ここまでご説明したように沖縄には独自の文化や風習があります。特にお盆の行われ方は他県とは違った風習があり、1日目をウンケー、二日目をナカビ、三日目をウークイと呼びます。この三日間で行われる詳細につきましては沖縄移住後のお盆の習慣についてをご覧ください。
また、お盆の他にも生年祝い(トゥシビー)、清明祭(シーミー)、カジマヤーなど独自の文化が多数あり、調べてみると新たな発見がある事でしょう。